標準・非標準ビッグバンモデル

出典: Astrophys. Lab., Kyushu Univ.

私たちの研究室では、宇宙の進化における元素の起源について研究を行っています。 と、いうことで、宇宙論の概要なんぞをここで語ってみたいと思います。

* 更新履歴
** この項目を書き始め [New!] --Rnakamura 2010年6月14日 (月) 14:42 (GMT)
** Figureを追加 --Rnakamura 2010年7月7日 (水) 03:53 (GMT)
** 元素合成について書き始める --Rnakamura 2010年10月6日 (水) 02:46 (GMT)
** 元素合成について色々と詳細を追加.--Rnakamura 2011年3月23日 (水) 01:43 (GMT)
** 研究室の内容について、少し記述--Rnakamura 2013年1月7日 (月) 05:39 (GMT)
** 誤字脱字を修正して、説明が足りないと思われる箇所に、説明を追加。--Rnakamura 2013年2月10日 (日) 17:15 (GMT)

ところで、宇宙論についてどれぐらい知っていますか?

  • ビッグバン宇宙って何? → こちら
  • 元素合成って何? → こちら
  • 基本的なことは知っているけど、この研究室って何やってるの? → こちら

目次

ビッグバン宇宙論の描像

図1.1 Big-bangのタイムテーブル・・・熱い宇宙で元素ができる
図1.2 宇宙の温度変化...今の温度は約3K


皆さんは、夜空を見上げたことがあるでしょうか(都会だから星は見えないって思わないことですよ。気づかないだけで、意外と見えたりします)。夜空を見渡してみると、様々な天体が輝いています。月や惑星にはじまり、恒星、星団、銀河、銀河団と、本当に様々な姿を見せてくれます。しかし、過去から未来永劫続いていく感じさえするこの姿は、今から140億年前の宇宙はいまとはまったく違った姿をしていました。

宇宙はいまから140億年ほど前、非常に温度が高く・密度も高い、火の玉のような状況から、爆発的な膨張することではじまりました。その状態を「ビッグバン」と呼びます。 このアイデアは1929年にアメリカの天文学者ハッブル(Edwin Powel Hubble)が、遠方の銀河からの光が赤方偏移していることを発見したことがきっかけです。 [1] 膨張しているということは、もし宇宙全体をビデオカメラで撮影していたとして、その映像を逆回ししていくと、宇宙がだんだん小さくなっていくことになります。つまり宇宙には始まりがある、ということになります。このアイデアを唱えたのが、物理学者ガモフ(George Gamow)です。ガモフは、過去に遡ると宇宙の温度や密度がだんだん高くなっていき、物質が存在していない時期があるのでは無いかと考えました。この突拍子もないように思えるアイデアこそが、「ビッグバンモデル」の始まりだったのです。

それでは、ビッグバンから始まった宇宙がどのような進化をしてきたのか、概観をご説明しましょう。

ビッグバンが起こった直後、宇宙の温度は1兆℃ 以上もあり、光で満ち溢れた世界だったと考えられています。もちろん、そのような温度の高い環境では、私たちが見ているような星や銀河はおろか、 元素すら存在していません。この時代の宇宙の構成メンバーは、光、ニュートリノ、電子(と陽電子)、陽子、中性子です。

やがて、宇宙が膨張していくとともに、温度がどんどん下がっていきます。それとともに、宇宙の中で様々な物質が作られていきました。ビッグバンから数時間のころまでに, 水素、ヘリウム、リチウムまでの軽い元素 (の原子核) が作られていきます(後述)。

ビッグバンから38万年ほど経つと、宇宙の温度が約1000度ほどに下がります。そこまで温度が下がると、電子は自由に振る舞えなくなるため、原子核に引き寄せされて、原子核のまわりを回るようになります。ここが、水素原子が宇宙で誕生した瞬間です。この時期を「宇宙の晴れ上がり」と呼んでいます。実は、私たちが観測できるもっとも遠い宇宙は、この水素原子誕生のところです。この時期に発せられた光が、実際に観測されており、「宇宙マイクロ波背景放射」と読んでいます。

さらに、そこから数億年ほどかけて、原子同士から分子が作られていくと同時に、宇宙のあちこちで分子がたくさん集まっている場所ができていきます。そういう場所が星が誕生する現場となるのです。やがて宇宙のあちこちで星が輝きはじめ、いま私たちが見ているような姿の宇宙になっていきました。

宇宙進化
温度時間What's happen!?
10^12 K0 Sec. Big-Bang始まる
10^10 K0.01 sec. 熱平衡状態
10^9 K 数分 陽電子・電子対消滅、元素合成
10^3 K 40万年水素原子形成、宇宙の晴れ上がり
10 K 数億年  最初の天体形成?
3 K 140憶年 現在
  • 参考サイト
  • 一般向けの参考文献(独断と偏見)
    • 宇宙のシナリオとアインシュタイン方程式, 竹内薫著, 工学社 (2003年)
    • 宇宙創成はじめの3分間, S.ワインバーグ著, 小尾 信彌訳, 筑摩書房 (2008年)
      • こちらは、特におすすめ。ずいぶん前からある名著ですが、最近復刻しました。
    • 宇宙論はいま, パリティ編集委員会編, 丸善, (2003年)
    • 岩波講座物理の世界 膨張物理とビッグバンの物理, 杉山 直, 岩波書店 (2001年)
      • こちらは、ちと専門よりかもしれませんな。結構前の本だけど・・・まだあるのかな・・・。

宇宙に存在する元素の起源 -ビッグバン元素合成

図2.1 軽い元素が生成される(ネットワーク編)宇宙の温度が約1.0e+9 K ほどになると、陽子と中性子が核反応を起こして重水素をつくる。それを契機として、ヘリウムやリチウムまで次々と生成されていく。
図2.2 宇宙最初でおこった軽い元素の生成される様子。はじめは陽子と中性子しか無いのだが、ビッグバンから約200秒ぐらいたったところで、重水素やヘリウムなどが生成される。
図2.3 バリオンの量を変えて言ったときに、He-4, (水素に対する)重水素、(水素に対する)リチウム7の量がどのように変化するのかを示した図。色塗りしているのが、各現存観測値。また、縦線で挟まれた範囲が、三つの観測値を同時に説明する範囲。

では、最初の元素が誕生してきた歴史を細かく見てみましょう。 始まったばかりの宇宙は、温度は100億℃ 以上だったと考えられており、光で満ち溢れた世界でした。 そのような高温下では、すべての元素は、陽子と中性子の状態で存在していたと考えられています。 非常に温度が高いため、陽子や中性子は、光子や電子などと熱平衡状態であり、以下のような反応が起こっていました。

n+ e^{+} \leftrightarrow p + \bar{\nu}_e

n+ \nu_e  \leftrightarrow p + e^{-}

n,pe,e,e + はそれぞれ、中性子・陽子・ニュートリノ・電子・陽電子[2]を意味しています。簡単に言うと、陽子や中性子がお互い入れ替わる(!?)現象が起こっているわけです。

やがて宇宙が断熱膨張するとともに温度が下がっていきます。 温度が1億℃程度になると、上に示した反応が起こらなくなります(つまり、陽子と中性子がお互いに入れ替わることができなくなります[3])。そのため 陽子と中性子の数が、{n}/{p} \simeq {1}/{6} と、ほぼ固定されます。この時の陽子と中性子数の比が、この後、生成される元素の量を決めているのです。

1億℃よりも低くなると、陽子と中性子の融合反応

n+p\to d + \gamma

がおこり、重水素[4] が生成されます(dは重水素のこと)。その反応を契機として 三重水素[5] ヘリウム3, ヘリウム4, リチウム7 などの軽い元素(の原子核)が次々と生成されていきます(図2.1)。 これをビッグバン元素合成と呼ばれている現象で、宇宙で最初に元素ができた瞬間です。

実は、宇宙初期で作られる元素はリチウムまでです。 なぜなら、これ以上重い元素と作るには、物質の密度の薄いのです。 さらに重い元素は、天体形成の段階で作られていきます。それには、さらに数億年待たないといけません。

元素合成でつくられる元素

注意 こっから、ちょっと物理やっている人向け。

さて、ヘリウム4などの各元素は、この時期にどの程度生成されるのでしょう。 この量は、陽子に対する中性子の存在量に大きく関係してきます。 先ほど陽子と中性子の比率は、温度が1億℃で1 / 6程度であることを述べました。しかし中性子は、不安定な粒子で約10分で半分程度まで減ってしまいます。そのため、元素合成が始まるまでにn/p\simeq 1/7程度まで減っています。 ここから、どの程度のヘリウムができるのかを見積もることができます。

ヘリウムの質量比(全物質密度に対するヘリウムの質量)を求めると 
\begin{align}
Y_{He} &= \frac{m_{He}n_{He}}{m_{p}n_{p}+m_{n}n_{n}} 
= \frac{4m_{p}n_{He}}{m_{p}n_{p}+m_{p}n_{n}} \\
 & = \frac{4n_{He}}{n_{p}+n_{n}}
\end{align}

ここで、mは質量で、nは数密度を示しています。 また、添え字の n,p,He はそれぞれ、中性子・陽子・ヘリウムを意味しています。 さらに数式を変形するときには、陽子と中性子の重さがほぼ等しいことと[6]、 ヘリウム4には、陽子・中性子がそれぞれ2個ずつ含まれていることを使っています。

ここでさらに、ヘリウム4には2つの中性子が含まれていることを考えると、nHe = n / 2という関係が成り立っています。


Y_{He} = \frac{2n_{n}}{n_{p}+n_{n}} = \frac{2}{1+n_{p}/n_{n}}

ここで、n/p\simeq 1/7を使うと、

YHe = 0.25.

つまり、全体の4分の1程度がヘリウム4であることがわかります。残りの約75%が水素です。リチウム7はこれらよりも、100億分の1程度しかできません。図2.2が元素の時間変化です。縦軸は、元素の存在量だと思ってください (正しくは、各元素の質量と全元素の質量比です)。初めは陽子と中性子しか存在していません。徐々に重水素が増え始めていきます。さらに10秒~100秒の間にヘリウム4が徐々にできはじめ、100秒を過ぎたあたりで一気に増えてきているのがわかります。1000秒を過ぎたあたりで、それぞれの元素の量が一定になっていますが、これは温度が下がり過ぎてしまい、図2.1で示した反応が起らなくなったためです。

ここで、実は初期宇宙で作られるヘリウム4を始めとする元素の量は、宇宙にどれぐらい物質があるのかに大きく依存しています。逆に言うと、元素の量を理論的に求め、観測と比較することで宇宙にある物質量(正しくは物質密度)を求めることができます。

それを調べた結果を図2.3に示します。横軸のηは、光子の数密度に対する物質の数密度です。宇宙にある物質数密度を示す量だと思ってください。物質密度が増えていくとヘリウム4も増える傾向にあることがわかります。逆に重水素は減っていきます。これは、密度が高いと図2.1の反応が起こりやすくなり、重水素がどんどんヘリウムに4に変わってしまっているためです[7]。 リチウム7はある点を境に増える傾向にありますが、これは密度が高いとベリリウム7[8]が生成される反応が起こりやすくなるため、最終的にリチウム7が増えることになるわけです。

図2.3の中にある色付きの横帯が観測結果です(2002年までの観測結果を採用)。ここから、観測結果を説明できる範囲は


\eta = 4.4 \times 10^{-10} \sim 5.6 \times  10^{-10}

と見積もることができます。このことから言えることは、わたしたちがよく知っているような物質は、宇宙をしめる全エネルギー密度のうち3, 4パーセントを 占めていることになります。

ちょっと違った宇宙論

図3.1 万有引力定数の時間変化。
図3.2 一般相対性理論以外の重力理論を用いた時の、He-4, (水素に対する)重水素、(水素に対する)リチウム7の量がどのように変化するのかを示した図。

ビッグバン元素合成の時に、作られるヘリウム・重水素・リチウム-7の量は物質密度に依存することをお話ししました。しかし、それはごく標準的な宇宙論の場合です。 標準的な宇宙論とは、一般相対性理論に基づいているモデルで、フリードマンモデルと呼ばれています。  例えば、新しい物理法則[9]を考慮に入れることで、元素の生成量は大きく異なります。

この研究室では、ビッグバン元素合成を用いて、ブランス・ディッケ (Brans-Dicke)重力理論の妥当性を調査しています。ブランス・ディッケ重力理論は複雑なので、詳細は省きますが、万有引力定数が「定数」でありません。時間とともに変化します。図3.1が、ブランス・ディッケ重力理論の万有引力定数の時間変化です。曲線はブランス・ディッケ重力理論のパラメータを変えて計算した、万有引力定数Gの違いです。この結果から、ビッグバンから0.01秒-100秒の時に$G$の値が大きく変わっていることがわかります。そのため、宇宙膨張率が大きく異なることを意味します。膨張率が変わると、温度の時間変化が変わることになり元素合成にも大きな影響が出ます。

元素合成の結果が図3.2です。生成される元素の量が大きく異なることがわかります。この結果を元素の観測結果と比較することで、モデルのパラメータの許容範囲を調べることができまます。現在のところ、ブランス・ディッケ宇宙論の明確な証拠は発見できていません。

本研究室では様々なテーマのもと,ブランス・ディッケ宇宙論の宇宙進化とビッグバン元素合成との整合性を調査しています。

  • Primordial nucleosynthesis in the Brans-Dicke theory with a variable cosmological term
    • K. Arai, M. Hashimoto, and T. Fukui
    • Astronomy and Astrophysics volume 179, No.1-2, pp.17-22. 1987年
  • Age of the universe constrained from the primordial nucleosynthesis in the Brans-Dicke theory with a varying cosmological term,
    • T. Etoh, M. Hashimoto, K. Arai, S. Fujimoto,
    • Astronomy and Astrophysics, volume 325, pp.893-897, 1997年
  • Big-bang nucleosynthesis in a Brans-Dicke cosmology with a varying Λ term related to WMAP,
    • R. Nakamura, M. Hashimoto, S. Gamow, K. Arai,
    • Astronomy and Astrophysics, volume 448, Issue 1, pp.23-27, 2006年 arXiv
  • Brans-Dicke model constrained from the Big Bang nucleosynthesis and magnitude redshift relations of supernovae,
    • E. P. B. A. Thushari, R. Nakamura,, M. Hashimoto, K. Arai,
    • Astronomy and Astrophysics[Research Note], Volume 521, id.A52, 4 pp., 2010年, arXiv

脚注

  1. 遠方の銀河が,距離に比例した速度で交代しているという法則で、「ハッブルの法則」と呼ばれる。続きはWebで♬
  2. 新世紀エヴァンゲリオンのヤシマ作戦で、ポジトロンライフルっていうのが出て来ましたね。そのポジトロンが陽電子です。質量は電子と同じですが、電子は-の電気を帯びているのに対し、陽電子は+の電気を帯びています。
  3. 細かいことを言うと、中性子は壊れる性質をもち、900秒ほど経つと、こわれはじめ陽子に変わります。
  4. 水素の同位体. 陽子1, 中性子1からなる (通常、水素の原子核は陽子1つのみ)。
  5. 水素の同位体. 陽子1, 中性子2からなる。
  6. 陽子の質量 = 1.672621637\times 10^{-31} kg, 中性子の質量=1.674927211\times 10^{-31} kg, (理科年表2009年版参照)
  7. 身近なもので例えると、給料が増えたからといって買えるものが増えるわけではありませんよね。税金が増えたり借金の返済にとられたりして、使えるお金は逆に減る場合だってあるわけです。
  8. ベリリウムの同位体。身近なベリリウム(宝石の成分に含まれている他、原子炉の減速材や音響装置として利用されています)、原子核が陽子4個+中性子5個ですが、ベリリウム7の原子核は陽子4個+中性子3個です。不安定な原子核で50日ほどで壊れ、リチウム7に変わってしまいます。
  9. 例えば、ニュートリノの質量(通常は質量がないとして取り扱う)や種類(通常は3世代)、中性子の崩壊する時間スケール、重力法則などがあります。

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